任期満了に伴う壱岐市長選と、欠員による市議会議員補欠選挙は12日、市内30か所で投票が行われた。即日開票の結果、市長選は現職の白川博一さん(69=無所属、自民・公明推薦)が7371票を獲得。新人で元壱岐しごとサポートセンターiKi‐Bizセンター長の森俊介さん(35=無所属)の7042票に329票差の僅差で、4選を果たした。
市議補選は無所属新人の中原正博さん(57=自民推薦)が8816票を獲得。共産新人の山口欽秀さん(66)の5096票を抑えて初当選した。市選管によると、当日の有権者数は2万1661人(男1万197人、女1万1464人)。市長選の投票者数は1万4527人(男6940人、女7587人)で、投票率は前回の79・16%を12・09ポイント下回る過去最低の67・07%だった。
新型コロナウイルス禍の下、市長選は異例の展開を見せた。1日から5日の5日間に市内で5人の感染者が出たことで、現職の白川さんは市感染症危機管理対策本部の本部長として陣頭指揮を執るため職務代理を置かず、5日の告示後も遊説、個人演説会など一切の選挙活動を行わなかった。「現職市長として、この方法しかなかった。有権者の声をじかに聞けないことで、手応えを感じることができなかったことが大きな不安だった」と4選を目指していた白川さんにとっても初体験の困難な選挙戦だった。
一方の森さんにしても、屋内での個人演説会などは中止せざるを得なかった。移住してまだ3年も経過しておらず、知名度では現職に比べて圧倒的に低かっただけに、選挙活動が制限されることはやはり痛手だった。森さんも「このような状況下で選挙活動をすることに抵抗はあった。そんなことをしている場合なのか、という市民の声はよく理解できた」と悩みもあった。
両陣営とも不完全燃焼の中での選挙戦は、大接戦となった。午後7時40分の中間発表(開票率48・21%)ではともに3500票ずつで差が付かず、報道陣は双眼鏡を使って票読みに力が入ったが、一向に差が見えてこない。午後8時10分に開票結果が確定し、西雪晴選管委員長が票数を読み上げて白川さんの勝利が確定すると、報道陣は白川さんが待機する芦辺・住吉会館に急いで駆け付けた。
壇上に上がった白川さんが後援組織・白友会の深見忠生会長、山本啓介県議、正子夫人らとともに万歳三唱を行うと、コロナ騒動以来、常に険しい表情を浮かべ続けていた顔に、一瞬だけ笑顔が戻った。
だが、コロナ対策のため少人数で簡易に行われた祝勝会後に報道陣に囲まれると、再び険しい顔に戻った。「新型コロナウイルスの影響で、本市の経済は大変な事態に陥っている。感染は全国的に拡大しており、もちろん気は抜けないが、6日以降は新たな感染者は出ていない。6日から8日に検査を行った濃厚接触者68人はPCR検査でいずれも陰性となっており、22日までには2週間が経過する。再びすべて陰性になれば、今回の1~5日の感染に関してはひと区切りをつけることができる」と市内の感染の現状を説明。
その上で「今後は市経済の立て直しにも取り組んでいかなければならない。17日に市議会を開き、市独自の緊急経済対策を上程する」と市政の継続に強い意欲を語った。
対策の中身は、現時点ですでに廃業の危機に立たされている飲食業、宿泊業、貸し切りバス業の救済が考えられている。「壱岐は観光が主要産業になっているが、これらの企業が廃業してしまったら、コロナが収まった後に観光客を受け入れることができなくなってしまう。いまは島外からの利用者が見込めないため、島内の市民が利用することで、何とか継続してもらいたい」と市民の利用に対して補助金を出すことを検討している。
もちろん感染拡大防止策は必要で「バスなら定員を半分にするなど、3密を避ける工夫が企業に求められる」と企業側の努力も促した。島民が利用しやすいようなアイデアも求められる。貸し切りバスは壱岐の魅力を改めて市民に見直してもらえるような公民館単位などでの利用を想定している。
約3百票差の僅差になったことについては「市民の反応を直接感じてこられなかった不安が、そのまま選挙結果として表れた。選挙運動をしなかったことで、政策を訴えることができず、市民にはこれまでの実績を見てもらうしかなかった。SNSなどを駆使する相手陣営の動きも読みにくかった。多選批判も一定はあったと思うし、私の政策に足りない部分もあったと認識している。票数は真摯に厳粛に受け止めるしかない。何が足りなかったのかこれから分析し、その人たちの意思にもしっかりと応えるように、公約を着々と実現させていきたい」と苦しい選挙戦を振り返った。
13日午前10時から壱岐の島ホール中ホールで当選証書付与式が行われ、白川さんは市選管の西委員長から当選証書が付与された。4期目は4月18日から4年間の任期となる。
白川さんにとって今回は329票差の勝利だったが、白川さんが市長選に初めて立候補した2004年は、長田徹さんにわずか233票差で敗れている。
その時の雪辱を晴らしたことになるが、それと同時に「初心に帰ってやるしかない。公約通りに『全ての産業振興に全力! 壱岐の未来へ必死!』の思いを胸に、4期目に臨む」と大ベテラン市長を初心に立ち返らせる選挙結果でもあった。
為書きの前で挨拶する白川さん
マスク着用で開票する係員