海女後継者で、3月末に市地域おこし協力隊員の任期を終えた大川香菜さん(31)と、夫でプロ釣り師の漁志さん(34)が17日、壱岐で初のゲストハウス「みなとやゲストハウス」を、芦辺町芦辺浦にオープンさせた。香菜さんは地域おこし協力隊員として海女漁などをこなしながら、漁志さんとともにゲストハウスにする中古物件探しに1年半、築約百年が経過する元遊郭の手作り改築に半年を費やし、壱岐を訪れる若者たちが気軽に集える念願のゲストハウスを完成させた。
早くから決まっていた17日のオープニングセレモニーだったが、開催には迷いもあった。14日夜、16日未明に熊本県などを襲った大地震で深刻な被害が出て、世間は自粛ムードが広がっていた。
香菜さんは、故郷の陸前高田市が東日本大震災で被災し、実家は大きな被害を受け、同級生7人を失った。香菜さんは震災当時、東京でアパレル関係の仕事をしていたが、「母と姉がいつでも安心して住める場所を用意しておこう」と考えたことが長崎県に移住した理由でもあった。被災者の気持ちは誰よりも知っている。
だからこそ、敢えて予定通りにイベントを行った。「自分たちが本当にしたいことを、したい時にしなくては駄目。被災者の方々には、私たちに何かできることを考えたい」と、イベントで販売したオリジナルスパイスカレー、海女のうに飯、ドリンクなどの売り上げと、募金箱に集まった義援金をすべて被災地に寄付することを決めた。
イベントには芦辺浦の地域住民、海女仲間、観光関係者、ゲストハウス作りに調度品や食器を提供するなど協力した人など約百人が集まり、壱岐焼酎の鏡割り、ゲストハウス2階からの餅まきや抽選会で大いに賑わった。
イベントに参加した白川博一市長は「大川さんは都会から壱岐に移住し、25年ぶりの新人海女になり、壱岐の魅力を全国にPR。さらに素晴らしい出会いがあって結婚。そしてゲストハウスの起業と、地域おこし協力隊員として理想的な活躍をしてくれた」と挨拶。山本啓介県議は「こんなに盛り上がった芦辺浦は久しぶりだ」と感激の様子で乾杯の音頭を取った。
漁志さんは「実家が釣り仲間の集まる場所だったし、全国のゲストハウスを泊まり歩いていた。自分の故郷にそんな宿を作りたかった。内装はほとんどが頂いたもの。クラウドファンディングで全国から161万8千円もの支援を頂き、古い建物をみんなの力で新しく生まれ変わらせることができた。みんなの愛情が詰まったゲストハウスです」と完成した建物に目を細めた。
香菜さんは「海女漁で収獲した海産物を多くの人に、気軽に味わってもらえる場所にしたい。壱岐の郷土料理や海女料理を提供して、壱岐が盛り上がることに少しでも貢献していきたい。いつでも遊びに来てください」と移住した壱岐での新たな人生の拠点完成に、笑顔を弾けさせた。
ゲストハウスは定員は16人で、素泊まりの相部屋(ドミトリー)は1泊3千円、個室は4千円から。1階は地元の人たちのために午後10時まで食事や飲み物を提供する。問い合わせは●40‐0190。