一支国博物館の第23回特別企画展として「山下清展~山下清が描く心の風景・東海道五十三次~」が12日に1階テーマ展示室で開幕した(来年2月15日まで)。同博物館でこれほど著名な画家の作品展示は初めて。「放浪の画家」と呼ばれ親しまれてきた山下(1922~71年)が、晩年のライフワークとして制作した大作「東海道五十三次」の版画全55点を一挙公開し、合わせて貼絵、水彩画などの作品も特別展示している。
同展を企画したのは河合恭典学芸員(37)。「世界一有名な画家と言えばピカソだが、日本で一番有名な、子どもでもよく知っている画家は山下清だと思う。しかも素直な作品で、誰もがそのすごさを感じることができる。ぜひ壱岐の人たちに、生の山下の作品を見てもらいたかった」と1年前から準備をして、公開にこぎつけた。
河合学芸員は絵画が専門ではないが、これまで数多く手掛けた企画展で企画会社などと親しくなり、山下清作品管理事務局から展示会の許可を得ることができた。須藤正人館長は「若い人の発想と行動力の賜物です」と評した。
「東海道五十三次」の原画は新聞社からの依頼で制作したペン(マジック)画だったが、それを記録用に制作会社へ依頼して版画3枚づつを残した。版画といっても3セットしかない貴重な作品だ。
山下は「瞬間記憶能力」という特殊な才能を持ち、現場ではほとんどスケッチをしていない。旅から戻って記憶した景色を書き起こしている。また1枚1枚に制作した時・場所の様子を、「やっと京都にきたな こんどの仕事はこんでおわりだな 数が多いからいつまでかかるかわからないな」などと山下らしい感性と言葉遣いで書き残している。文章も作品横に掲示されており、作品を鑑賞しながら読むとなおさら興味深さが増す。
「山下清というとテレビドラマのイメージが強いが、じつは繊細で几帳面、服装にも気を遣うおしゃれで潔癖症の人間だったと言われている。これらのテレビのイメージとの違いを、作品を直に観ることで感じてもらえるのではないか。また歌川広重の浮世絵と比較しながら鑑賞するのも、時代や作者の感性の違いが感じられて楽しいと思う」と河合学芸員は話した。
山下の代名詞でもある貼絵(ちぎり絵)は、展示室の規模など制約があり、「パリのサクレクール寺院」「ロンドンのタワーブリッジ」と欧州へ旅行した際の2点だけだが、作品を目の前で鑑賞できるので、その驚異の精巧さを堪能することができる。
遺品として展示されている「放浪日記」は、ノートの端から端までを使ってビッシリと、几帳面な字と正確な漢字で書き込まれており、山下の一面を知る貴重な資料。また記録映画「はだかの天才画家山下清」(カラー30分)も常時上映されており、当時の貼絵制作を観ることができる。
観覧料は一般500円、高校生以下200円、年間パスポート所持者300円。1月25日には清の甥である山下浩さん(山下清作品管理事務局代表)の特別講座「家族が語る山下清」が3階多目的ホールで開催される。入場無料、事前予約不要。