市民からの請求ではなく、市からの提案により壱岐市で初めて実施される「市庁舎建設の賛否を問う住民投票」。市民説明会、公民館長会議、市商工会などで市が説明した内容に対して疑問の声が多く挙がったが、各会で建設反対を声高に主張したのは同じ顔ぶれが多かった。市が「中立」を主張することで賛成を明確に主張する人は表面化せず、反対運動も全島的な盛り上がりは見せていない。対立軸が明確に示されていない中で二択を問う住民投票に、市民の多くは戸惑っているように映る。市民の貴重な1票が何をもたらすのか、その意義を検証する。(高瀬 正俊)
「大阪都構想」の賛否を問う投票が5月17日に大阪市で行われるなど、全国的に注目を集めている「住民投票」。①自治体と市議会との意見が分かれる、②首長選挙の公約と違う施策を行う、③市の施策に市民の反対運動が広がる、④大阪都構想のような自治体の将来を左右するスケールの大きなテーマを問う、などのケースで実施されることが多いが、壱岐市の場合はそれらと様相が異なる。
庁舎建設は市長が提案し、市議会も特別委員会で「賛成」の決議をした。また市長選挙時は庁舎建設が争点になっておらず、平成24年6月に合併特例債の期限が5年間延長されたことを受けて新たに建設を提案した。①②とは明らかに違う。
市民団体「市庁舎建設に反対する市民の会」が今年2月に組織されたが、市全体を巻き込んでの運動とはなっていないので③とも違う。米軍部隊や基地移転などとは違い④も当てはまらない。市民の盛り上がりに欠けているのは、それらの理由がありそうだ。
その上、建設是非の判断は極めて難しい。判断材料となる現庁舎の「耐震改修」「長寿命化改修」は耐震性能やコンクリート強度など専門的な知識が必要であり一般市民が理解するのは困難だし、専門家の中でも判断が分かれている問題が含まれている。
今回は建設を行わず平成31年以降に実施する場合の合併特例債に替わる補助金の有無も、国の地方創生の今後の方向性などとも関わっており、高度な政治的な判断が求められる問題だ。
壱岐市の財政状況を示す標準財政規模、財政力指数などの各種数値も、市民にはなかなか理解できない。市は配布したチラシに「財政力は弱いけど、他の市より自由に使えるお金があって、ゆとりもあるし、借金返済も少ないってことは、健全な運営ができてるってことだね」と柔らかい表現で説明しているが、この言葉の解読ですら難解だ。
本来であればこのような専門的な知識が求められる政治上の判断は、議会の仕事だろう。議員が建設・財政問題について徹底的に勉強して、市執行部と丁々発止と渡り合い、議決するべき問題だ。紆余曲折があって住民投票実施が決まったが、その必然性が感じられないことで市民の関心が薄いことは否めない。
それならば「建設の是非」というよりも、市民が現在の白川市政と市議会について、市民病院の県病院企業団加入、介護福祉専門学校の誘致などの実績、適切な議会運営が行われているかなども含めて冷静に検討し「信任できれば賛成」「信任できなければ反対」という形に置き換えて考えれば、投票活動が行いやすくなるのではないだろうか。それならば建設・財政の専門的な知識はなくても判断が可能だ。
壱岐市の住民投票は全国紙でも取り上げられており、全国からの注目度は日に日に高まっている。投票日まであと2日、壱岐市の真剣さ、地方創生への強い思いを、市民は投票という形で示さなければならない。