4日から10日の人権週間に合わせて、一支国じんけんフェスティバル(市など主催)が8日、勝本・かざはやで開かれ、作家で僧侶の家田荘子さん(年齢非公表)が「取材現場から~私の出逢った人たち~」の演題で記念講演を行った。家田さんは自身の体験、様々な取材経験から、いじめ・DV・ネグレクト問題の深刻さとその解決策、大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著書「私を抱いてそしてキスして‐エイズ患者と過ごした一年の壮絶記録」の取材を通して学んだ差別や偏見のなくし方などについて、90分間にわたって熱弁を振るった。
家田さんは幼少期から母親の暴力や学校でのいじめを体験した。「母親に殴られ、怒鳴られて育った。いまでも誰かが肩より上に手を上げるだけでビクッとし、怒鳴り声を聞くと動けなくなる」と暴力が心に染みついていることを打ち明けた。「殴られるなら黙っていた方がいいので、言葉を出すのが苦手な子になった。そんな性格のため学校ではいじめの標的になり、誰にも助けを求められなかった。『死ね』と言われ続けると洗脳されて、死んだら楽になれると思ってしまうもの。死なずに済んだのは、逆転の発想で『いまが一番辛いのだから、もう少し生きていれば楽になる』と思ったから」といじめに遭うことの深刻さを語った。
「子どもは芝居が上手で、いじめをする子は周囲からは良い子で人気者と思われていて、いじめになると一瞬で態度が変わる。極道の取材もしたが、子どもの方が恐ろしいと思う。家では良い子にしているので、ストレスがたまっている夏休みや冬休み明けや、月曜にその解消をすることが多い」とその残忍さを示した。その上で「DVやいじめの被害は、ぜひ行政に相談してもらいたい。人権擁護委員や女性の人権相談など長崎県でも体制が整っていて、しっかりと対応してくれる。頑張ろうとしている人には親身になって応援してくれる。秘密も守って、他の自治体とも連携して、逃げる手立てをしてくれる。待っていても何もしてくれない。自分から一歩前に出て、しっかりと意思表示をすることが大切」と行政を信頼して相談することを勧めた。
また「傷やあざがある子どもがいたら暴力を疑って『一緒に相談に行こう』と声をかけて欲しい。洗脳されていたり、相談がばれるとなおさら殴られると思う子どももいるが、そんな時は責めないで、何をして欲しいのか聞いたり、落ち着いたらまた誘ってあげて」と周囲の対処方法をアドバイスした。「私はいじめられた経験から、いまでも育った町が好きになれない。その町の名前を聞いただけで、子どもの時の記憶がよみがえり体がこわばる。この島で育った人には、そんな人にならないでもらいたい」と要望した。
「挨拶が大事。挨拶して無視されるとガクッとなるが、それでもあきらめずに続けていれば、次第に相手も挨拶してくれる。その声が徐々に大きく、挨拶以外の会話になり、いずれは悩みを打ち明けてくれるかもしれない。しっかりと挨拶ができる町は市民の顔が明るく、町がきれいで力がある。できない町は顔が暗くて怖く、町はゴミが落ちていて汚く沈んでいる」と提案した。
差別や偏見については「国、年齢、性別、育ち、職業など、差別を受けて良い人など1人もいない。1人1人が違うことは個性であり、とても素敵なこと。人は役目を持って生まれてきている。自分ができる役目をやって、できないことは助けてもらう。相手を理解できれば思いやりの気持ちも芽生える。相手を知る勉強をし、自分ができることを探して欲しい。優しくされれば優しくしたいと思うもの。挨拶、笑顔、手を貸すなど無理のない人助けの継続が大切だ」と人権について語った。