大種雄牛・平茂晴が昨年末に死亡して悲しみに暮れる県和牛界に救世主が誕生した。県肉用牛改良センター(平戸市)は10日、現場後代検定(産子の増体、枝肉などから種雄牛の能力を検査する方法)の成績を発表。ともに壱岐産の「隼勝忠」(はやかつただ、平成24年、芦辺・井手春敏さん生産)と「勝忠勝」(かつただかつ、23年、郷ノ浦・大久保裕治さん生産)が脂肪交雑(BMS値)でそれぞれ9・0、8・9という県所有牛歴代2、3位の好成績を記録した。今後の長崎和牛の飛躍的な品質向上に大きく寄与することが期待されている。
現場後代検定のBMS値(県平均6・8)は、一昨年5月の検定で10・3の日本一を記録した勝乃幸(22年、平戸市産)がトップに君臨しているが、隼勝忠、勝忠勝の2頭の数値はこれに次ぐもので、弁慶3(郷ノ浦・成石範明さん生産)の8・8、いまや県のエースに成長した金太郎3(勝本・豊坂敏文さん生産)の8・4を上回った。
隼勝忠のロース芯面積は69・8平方㌢で、百合幸(石田・松本則雄さん生産)の72・1、弁慶3の71・1には及ばないものの、勝乃幸の69・0を上回っている。勝忠勝は枝肉重量、ロース芯面積は隼勝忠に劣るものの、それでいてBMS値が高いのは緩みがない産子を輩出していることを示している。上物率(肉質4等級以上、県平均81・7%)はともに100%だった。
2頭はともに鹿児島で供用され全国的な人気を誇っている気高系の勝忠平(その父・平茂勝)の子で、しかも母の父も平茂勝という同じ血統構成を有し、強いインブリード(近親交配)を持っているのが特徴。同系の勝乃幸(祖父が平茂勝)、金太郎3(父が平茂勝)とともに気高系の全国トップクラスの種雄牛が県改良センターに揃ったことで、磐石の態勢が整う。全体的なバランスを重視するには隼勝忠、勝忠勝が適しているが、BMS値を第一に考えれば勝乃幸を、枝肉重量を強調するためには金太郎3を、ロース芯面積を重視するには百合幸を、と配合の選択肢も大きく広がる。
気高系の充実によって、県内に多数が供用されている糸桜系の平茂晴の繁殖牝牛との交配には最高のラインナップとなるし、今後増加が予想される但馬系の弁慶3らの繁殖牝牛とも好相性となる。3大血統がいずれも日本最高レベルで揃うことは、長崎和牛の発展に大きく貢献することになる。平茂晴が死亡しても、長崎和牛は壱岐産種雄牛が牽引していく図式に変わりはなく、さらに強固なものとなっていきそうだ。