平昌五輪は「故郷」の在り方についても考えさせられる大会だった。大会最後のメダル獲得となった女子カーリングは、試合中の「そだねー」など北海道弁による会話や、旭川市旭山動物園で実施されている動物たちの食事時間をもじった「もぐもぐタイム」なども注目を集めた。そのメンバー5人は全員が北海道北見市の出身で、そのうち4人は同市の常呂(ところ)町生まれ。2006年に北見市と合併したが、メンバーが生まれた時にはまだ常呂町で、合併前の人口は5千人以下だった。
五輪後に故郷に戻ったメンバーはセレモニーの挨拶で、吉田知那美選手が「正直この町、何にもないよね。この町にいても絶対夢は叶わないと思っていた。だけど、今はこの町にいなかったら夢は叶わなかったな、と思う。たくさん夢はあると思うけど、大切な仲間や家族がいれば、夢は叶う。場所なんて関係ない」と子どもたちに向かって語った。
常呂町には目立った名所はない。サロマ湖の一部に面してはいるが、湖を眺める施設は佐呂間町、湧別町側で、観光客はほぼ訪れない。町民が遊びに行く場所もないことで、町は「それなら大人も子どもも遊べるスポーツを始めよう」と1981年からカーリング普及に取り組んだ。88年には国内初の屋内カーリング専用リンクを建設。90年からは市内小学校でカーリング授業を取り入れ、現在はすべての小中学校、高校で実施。98年長野五輪以降14人の五輪選手を輩出している。
陸上長距離も町おこしに活用。延々と続く直線道路を通行する車がほとんどなく、ロードのトレーニングには最適で、以前から大学・実業団の陸上部が合宿を行っており、85年からサロマ湖100㌔ウルトラマラソンを周辺自治体とともに創設。ゴールは常呂町スポーツセンターだ。場所なんて関係ない。知恵と情熱があれば、どこでも夢を叶えることはできる。壱岐の若者たちにも、ぜひそんな気持ちを持ち続けてもらいたい。