壱岐に別府温泉がやってきた。
大分県別府市が、熊本・大分地震から1年が経ち、観光客の減少のピンチを支えてくれた全国の人たちに感謝の気持ちを伝える事業「別府温泉の恩返し・恩泉配達隊」が9月26日に本市を訪れ、石田町南触の豊永力雄さん(83)宅の風呂が温泉で満たされた。
同市の恩返し事業は、平成28年熊本・大分地震以降に別府市に来てくれた人、報道を見て心配してくれた人、別府温泉に行きたかったが行けなかった人などを対象に、感謝の気持ちを込めて全国に温泉を無料で届けるもの。
4月から募集を開始し、8月末までに2472件の申し込みがあった(募集は来年1月31日までの予定)。申し込みフォームに書かれた「別府温泉への思い」などから選考して、これまでに全国約50件への配達を行っている。9月24~27日は熊本、長崎、佐賀の12件への配達で、本市では豊永さん宅1件が選ばれた。
温泉は別府温泉の数ある源泉の中から、家庭用浴槽を傷めない無色透明の鉄輪地区の湯を、4㌧タンク車で輸送してきた。豊永さん宅へは通常は大型車が入れないような狭い道を通るが、何としても温泉を届けようと懸命の運転でたどり着き、54℃の熱さを保ったままの湯をホースで注いだ。
別府市観光課別府ブランド推進係の後藤寛和主査は「全国へ配達するのは大変だが、温泉が浴槽に注がれた時に応募者の喜んだ顔を見ると、疲れも吹き飛ぶ。別府温泉が皆さんに支えられていることを改めて感じる」と話した。
タンク車には2人しか乗れず、フェリーでの車の運搬は料金が高いため、スタッフ2人は印通寺港から壱岐チャリでタンク車を追いかけて、経費削減にも努めた。まさに体を張った震災支援への返礼となった。
豊永さん宅は、妻の葉子さん(77)が温泉好きで、今年も正月に別府温泉に旅行したが、3年前の病気で体が不自由なことから気軽に旅行に行くことができないため、嫁のみゆきさん(57)が義母に自宅で別府温泉を楽しんでもらおうと応募した。
みゆきさんは「まさか当選して、壱岐まで温泉を運んでもらえるとは思っていなかった。感激で涙が出ます。柔らかな泉質で、母にも気持ち良く入ってもらえるし、旅行を面倒臭がる義父も自宅なら温泉を楽しんでもらえるはず。これから旅行は必ず別府へ行きます」と感激していた。
葉子さんも自宅の風呂に注がれた温泉に「温泉の良い香りがした。感謝します」と満面の笑顔を見せた。