リオデジャネイロ2016パラリンピックの視覚障害(T11・T12)女子マラソン競技が18日にあり、道下美里(T12クラス、39=三井住友海上)が、3時間06分52秒のタイムで見事に銀メダルを獲得した。福岡県を練習拠点としている道下は、今年6月25~27日に本市でパラ五輪直前合宿を行い、原の辻遺跡周辺や筒城浜ジョギングコースなどで最終調整を行った成果を、本番で発揮した。ウルトラマラソン開催など陸上長距離に力を入れ、スポーツ合宿で交流人口拡大を目指している本市の行政にとっても、大きな価値ある銀メダル獲得となった。
今大会から正式種目として採用された視覚障害女子マラソン競技には、日本からの3選手を含め7選手が出場。自己ベストは2時間59分21秒の道下が1位で、今大会金メダルがなかった日本選手団にとって、最後の切り札となる優勝候補だった。
気温24℃、湿度82%というマラソンには厳しい気象条件で、道下は前半、5㌔22分前後のラップでじっくりとスタートを切った。15㌔地点までは4番手に控え、20㌔地点で3番手、30㌔地点で2番手と、ペースを落とした先行選手をを交わして徐々に順位を上げて行ったが、スタートから21分30秒前後のハイペースで飛ばしていたスペインのエレーナ・コンゴストのペースは最後までまったく衰えなかった。
5㌔ごとに30秒前後の差を広げられ、35㌔地点では4分48秒差になった。道下は35~40㌔の5㌔でエレーナを1秒上回る21分13秒のラップを記録する追い上げを見せたが、ゴールでは5分09秒差及ばなかった。それでも道下は両手を挙げて、伴走者の青山由佳さん、堀内規生さんとともにに、満面の笑顔でゴールテープを切った。
タイムは自己ベストよりも7分半遅かったが、3位のサントス・ドルタ(ブラジル)には11分46秒の大差。同選手はシーズンベストが道下の記録を上回っており、コースを知り尽くした地元勢だったが、それでも自己ベストを15分以上も下回った。
自己ベストが道下と1秒差だったパレデス・ロドリゲス(スペイン)は途中棄権。男子マラソン優勝者も自己ベストの世界記録を11分近く下回ったように、厳しい条件下でのレースだった。自己ベストを1分以上更新したエレーナが驚異的だっただけで、道下は自分の力を出し尽くした。
道下は公式インタビューに「悔しさも残りますが、銀メダルはいまの私にとって最高のメダルです」と笑顔を見せ、2020年東京大会は「主人と相談してどうするか決めたい」と話した。
道下が壱岐合宿を行ったのは、パラ五輪でも伴走を務めた堀内規生さん(35)が今年の壱岐の島新春マラソンに初出場し、コースや雰囲気に感激したのがきっかけ。「道下にもぜひこの環境で練習をしてもらいたかった」と3日間の短い時間だったが、リオのコースに似た海沿いのロードを体験するなど、「チーム道下」は大きな収穫を得た。
道下も「北海道まで練習に行くこともあったので、それを考えれば福岡から壱岐はすごく近い。梅雨の蒸し暑さでバテていた時に、涼しい気候と爽やかな風は助かったし、地元ランナーとも温かい交流ができて、気分をリフレッシュできた」と壱岐合宿の効果を語っていた。
すっかり壱岐を気に入った堀内さんは、リオのレースからわずか2週間というハードスケジュールを押して、10月2日の壱岐ウルトラマラソン50㌔にも出場を予定している。道下が今後、東京パラ五輪へ向けて定期的に壱岐で合宿を行う可能性もあり、チーム道下と壱岐の絆は、ランナーと伴走者のように太い信頼を築きつつある。