株式会社なかはら(芦辺町、野見山茂生社長)と有限会社橋本水産(郷ノ浦町、中原泰輔社長)の両社は6日、ビューホテル壱岐で「陸上養殖トラフグ試食懇談会」を開き、白川博一市長ら約70人が参加した。両社が郷ノ浦町の鎌崎陸上養殖センターで昨年から試験的に陸上養殖をしているトラフグが無事に成魚となり、来年度からの本格養殖開始を前に試食会を開き、関係者らから意見を聞いた。大腸菌が極めて少ないボーリングした地下水を用いた低塩分生態環境水の安全性
PR。将来的には年間数万尾規模まで拡大しブランド化を図り、壱岐の新しい産業、特産品として全国へ売り出していく方針だ。
試食会では今回試験的に育てた陸上養殖トラフグと、従来の海面養殖ものを「てっさ」(フグの刺身)で食べ比べした。鵜瀬和博市議会議長は「フグを食べ慣れていないので違いはよく判らないが、どちらも美味いのは確か。安全性が高いのは魅力だし、養殖の規模を拡大して安価になれば、壱岐の名産として十分に売り出していけるのではないか」と話した。
一般的にトラフグの陸上養殖ものは、旨み・ゼラチン質の量・におい・過熱による変化など、海面養殖に比べてより天然ものに近いと言われている。また血合い(身に入る細かい筋状の模様)の量が極端に少なく、てっさは透明感があって美しい。だが水槽などの初期投資や、水質維持などの管理に経費がかかることで、価格面が大きな課題になっていた。
両社が今回取り組んでいる陸上養殖は、大腸菌数が非常に少ない地下水をボーリングでくみ上げ、ろ過した海水で塩分濃度1%程度の低塩分の「生態環境水」を作り利用する。従来のかけ流し方式ではなく、微生物浄化ろ過槽を通すこと、半分近くの水量を再利用することでコストダウンに結び付けている。
陸上養殖センターの濵中修身センター長は「海水魚を1%程度の低塩分で育てると、体液浸透圧調整のためのエネルギーが必要なくなり、病原菌や寄生虫もなく、また水温が一定であるためストレスなく成長できる。消毒薬や抗生物質ももちろん使用していない。海面養殖に比べて約1・5倍の成長で、将来的には1年間程度で出荷が見込まれている。また、噛み合いなどで生じた傷から塩水が入り死ぬことも少なく、90%以上という高い歩留まりを記録している」と低塩水陸上養殖のメリットを語った。
試験品の販売を行う福岡魚市場(福岡市)の川端淳社長は「水槽排水の大腸菌数が100㍉㍑中23個というデータはまさに驚異的。生ガキを消毒する海水でも70個レベルだし、生食用の魚の基準は10の3乗レベルだ。食の安全安心が叫ばれている中、この安全性は大きなアピールポイントになる」と販売戦略に太鼓判を押した。
両社は今後、鎌崎陸上養殖センターに水槽施設を増設する計画を立てており、5年間で数万尾程度まで増産を目指している。またタグによる個体識別番号で徹底管理し、ブランド化による知名度高揚や、県内大学や研究機関と共同研究を行い無毒性を立証し、トラフグ加工に関する県内条例の緩和を要望していくなど、トラフグ陸上養殖を壱岐の地域振興の起爆剤とすることを計画している。