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直木賞作家が壱岐を書く。「熱源」川越宗一さんが来島。

1月15日に発表された第162回直木賞を「熱源」で受賞した川越宗一さん(41)が1月26~28日に、新作取材のため壱岐に来島した。県が「長崎を舞台にした作品をもっと描いてもらおう」と、作家らの創作支援を行うために2016年度から実施している「描いてみんね!長崎」の一環で、新作は本県出身の実業家・梅屋庄吉(1869~1934年)の人生の軌跡を独自の視点から描く長篇書下ろし小説となる。本市は梅屋の妻・トク(1875~1947年)の出身地であることから、川越さんは実家跡のある勝本町勝本浦の訪問、当時の歴史に詳しい一支国博物館・須藤正人館長への取材などを行った。

川越さんは2018年度の「描いてみんね!長崎」で、平戸で生まれた明の英雄・鄭成功(てい・せいこう)の母を主人公とした「海神の子」を執筆した。その長崎取材の際に梅屋庄吉にも興味が膨らみ、今年度の同事業で庄吉の人生に関する小説を書くことを決め、直木賞受賞前からこの日程での長崎市、壱岐市訪問を決めていた。
「庄吉の人生はまさに波乱万丈で、いろいろなエピソードがある。作品のテーマは今後、取材を進めながら絞っていくが、辛亥革命を指導した孫文を支援し、交流を続けた友情、孫文の夢に共感した部分は大きなテーマになるだろう。庄吉の熱意、情熱に打たれた」と題材について話した。
直木賞作品となった「熱源」は、サハリンに流刑されたポーランド人ブロニスワフと、サハリン生まれのアイヌ・ヤヨマネクフが主人公の史実をもとにした歴史小説だが、川越さんが創造する魅力的な女性たちも重要な役割を果たしている。

川越さんは以前に週刊誌のインタビューで「人類の半分は女性なのに、歴史の本、特に政治史には女性があまり出てこない。歴史は人の思いや行動の集積で、男の話ばかりしていると、その半分しか描けないことになってしまう」と語っていた。庄吉が主人公となる小説でも、妻・トクの存在は欠かせないものとなる。
川越さんが一支国博物館で記者会見を行った1月27日は、最大瞬間風速21・2㍍、80㍉の降水量がある大荒れの天気となった。「壱岐は海がきれいだと聞いていたが、今回はその美しさではなく、トクの育った離島の荒々しい雰囲気を体感することができた。この雰囲気、風景の中でトクの個性がはぐくまれたのだと感じることができた」と取材旅行の成果を話した。
トクは勝本浦の鉄砲奉行も務めた士族の生まれで、17歳の時に米屋や貿易商を営む梅屋家の養子になった。梅屋商店は外国人との取引も多かったが、トクは英語、フランス語、マレー語などをすぐにマスターして経営を支えたという。庄吉と結婚後も、庄吉の博打仲間の犯罪者の更生を手伝ったり、庄吉の友人が愛人に産ませた子を育てるなど、庄吉を支え続けた。また孫文が日本に亡命した後も、その結婚を応援したり、世話をするなど、孫文夫妻の生活も支えた。

「庄吉は情熱だけで動く人で、だらしなさもあった。それを支え続けたトクは本当に強い人だったのだと思う。庄吉はトクによく怒られていたのではないかと想像する。一方で、人の出入りの激しい士族の家で多くの人に会っていたので、包容力もあったのかもしれない」とトクに対して想像を膨らませた。
また「壱岐は常緑樹が多いというイメージだが、葉が落ちない、色褪せないという点は、トクに共通する部分なのかもしれない。魏志倭人伝から連綿と続く壱岐の歴史の中で誕生したトクという女性の素顔にも迫っていきたい」と小説の構想について話した。

直木賞受賞で多忙を極め、今後のスケジュールは未定だが、小説に先立ってウェブサイト「文藝春秋BOOKS」で取材旅行の紀行を掲載、その後に小説執筆に取り組んでいく。
◇川越宗一さん 1978年大阪府出身。京都府在住。龍谷大学文学部史学科中退後、アルバイトをしながらロックバンドでベースを担当。30歳で会社員になり、時間の余裕ができた4年前から小説を書き始めた。2018年に第25回松本清張賞を受賞した「天地に燦たり」でデビュー。直木賞作品となった「熱源」では第9回本屋が選ぶ時代小説大賞も受賞している。
◇描いてみんね!長崎 幅広い世代、嗜好の異なる読者層へ、小説や漫画などを通じて長崎県の魅力に気づいてもらうことを目指し、県に関わりのある作品を多く生み出すことにより、作品舞台を巡る「聖地巡礼」などで交流人口の拡大を目指す。今年度予算額は172万2千円で、作品制作の支援、出版作品のPRなどを行う。これまでに対馬市を舞台にした、たかぎ七彦さんの漫画「アンゴルモア元寇合戦記」がテレビアニメとして放送、大村市の向陽高校をモデルにした、宮木あや子さんの「手のひらの楽園」が新潮社の電子書籍で連載された。

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