重家酒造(横山雄三社長)が有人国境離島法の雇用機会拡充事業を活用して石田町池田西触に建設した日本酒蔵「横山蔵」で14日、今年度の日本酒仕込みが始まった。市内での日本酒醸造は28年ぶりとなる。
酒造り初日は麹用米の洗米などの作業を行った。麹にするための白米を10㌔ずつ白米洗浄装置に入れて自動で洗浄。それを水に浸漬し、水切りをするまでの工程となった。導入された最新鋭の白米洗浄装置は洗浄程度、時間などを設定できるが、もっとも重要な洗米時間、浸漬時間の判断は蔵人の経験と技量にかかっている。特に麹用米の吸水率の調整は、「一麹、ニもと(酒母)、三造り」とも言われている日本酒造りの中でもっとも重要な工程となる。
同社の横山太三専務は2014年から「東洋美人」で知られる澄川酒造(山口県)の設備を借りて純米大吟醸酒「横山五十」を醸造してきた経験があるが、機械、気温、水温、米の違いが吸水率を左右するだけに、初日から極めて繊細な作業となった。目標とした吸水率は、白米10㌔を浸漬後に13・3㌔にする設定だったが、1回目は13・77㌔。横山専務が白米洗浄装置の設定を微妙に変え、6人のスタッフがストップウォッチとにらめっこをしながら16回作業を繰り返すことで、最終的には目標の平均13・3㌔台に到達して、無事に麹米160㌔の洗米作業を終えた。
横山専務は「大きなトラブルが起きずに初日を終えられた。吸水率も思っていた枠に入ってくれた。このデータを積み重ねていき、今後の作業に活かしていくことが大切だ。きょうは焼酎蔵の社員も動員して7人掛かりで作業したが、今後はこれを2人でやっていかねばならない。これから毎日作業が続くが、酒のことが心配で蔵から外に出たくない心境だ」と酒造りがまるで子育てのような気持ちであることを語った。
この日から始まった仕込みは、等外(規格外)の米を使用した実験的な要素も含まれているが、「等外米でも質が良く、50%精米しているので、このまま順調に行けば、かなり良い酒ができると思っている。10月末には新酒が出来上がるので、普通酒『よこやま(等外)』を生酒として、1升瓶2800本を1本2500円程度の価格で出荷する予定。本番となる純米吟醸酒も生酒は11月中旬から発売を予定している。来年は40%精米の純米大吟醸酒造りにも取り組む」と壱岐での日本酒造りに夢を膨らませた。
◇生酒(本生) 1度も火入れをしていない日本酒のこと。通常の日本酒は腐敗や劣化を防ぐため、2度の火入れ(60℃前後で低温殺菌)を行う。生酒は劣化が早く新鮮さが重要となり、蔵元の地元でしか味わえないものが多い。フレッシュで爽やかな飲み口が特徴で、口当たりが柔らかい。「生貯蔵」は瓶詰めの前に1度火入れ、「生詰め」は貯蔵の前に1度火入れをする。