社説

「ウエストリー」に見る地方創生。

「WESTORY」(ウエストリー)というブランドを聞いたことがあるだろうか。長崎県北部にある3つの老舗縫製工場が昨年10月に立ち上げた、メイドイン長崎のオーダースーツブランドだ。

国内で流通するアパレル製品の97%は、安い労働力がある海外生産となっており、国内の縫製業界は苦境に立たされている。大手メーカーの下請けとして、男性用ズボンを作る「エミネントスラックス」(松浦市、創業1969年)、オーダースーツのジャケットを作る「アリエス」(平戸市、同1974年)、シャツを作る「ジョイモント長崎工場」(佐々町、同1967年)は、いずれも技術的には世界トップレベルにあるものの、工賃が上がらないため給料も上がらず、人が集まらなくて技術の継承ができず、存続の危機を迎えてきた。その同じ悩みを抱える3工場が生き残りをかけて立ち上げた新しいスーツブランドがウエストリーだ。日本の西から、もの作りの心、最高の技術、自分たちの物語を伝えていきたいという思いから「ウエスト」(西)、「エスト」(最高級)、「ストーリー」(物語)から造語し、命名された。

オーダースーツというと敷居の高さを感じるものだし、実際に3社が下請けとして縫製してきたジャケット、ズボン、シャツが大手メーカーから販売されると庶民には手が届きにくい価格になっていたが、下請け業者が直接販売するウエストリーでは、地元民が気軽にオーダースーツを購入できる価格設定を予定。販売網を持っていないため、当面は年に2回、松浦市の道の駅「海のふるさと館」での販売会のみとなるが、多数の問い合わせが寄せられている。

地方創生が叫ばれていながら、なかなか成功事例が見られない。その原因の1つが「地元の熱量」にあると言われている。地元で愛され、活用されるものでなければ、地元以外の人には受け入れられない。このウエストリーの事例こそ、地方創生のお手本になるのではないだろうか。

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