米国の遠隔操縦航空機大手ジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(以下、GA社)は10日、壱岐空港を拠点に無人機「ガーディアン」を利用した実証実験を開始した。民間企業が大型で長距離航続が可能な無人機を飛ばすのは日本初。実証実験は壱岐市との共同研究となる。今月末まで10数回のフライトを予定し、海洋観測や海難救助などの支援を想定したデータを収集する。実験に先立ち9日に同空港仮設格納庫で記念式典を開き、関係者らに機体を公開。13日には市民への一般公開も行われた。
公開されたガーディアンには、最新鋭の装備が施されていた。船舶自動識別装置、高精度カメラ、衝突防止レーダーの3つのセンサーを駆使し、海上偵察をしながら通信衛星を通じて地上から遠隔操縦をする。米国では単独飛行で国境警備などの実績があるが、日本では有視界飛行のみを認めている航空法に則り、セスナ機が飛行に帯同する。セスナ機は北九州空港から離陸し、壱岐空港上空でガーディアンとランデブー(並行飛行)する。
当初は9日の式典に合わせて飛行を開始する予定だったが、悪天候が続き準備が遅れたため、初フライトは10日午前11時半過ぎとなった。乗員設備が必要なく機体が軽量(4㌧程度)のため、離陸距離が600㍍程度と短く、離陸時の速度も速い。多くの報道陣が見守る中、ガーディアンは瞬く間に壱岐空港から飛び立った。10日のフライトは壱岐周辺の海上を約4時間飛行、11日には島根県隠岐付近まで観測地点を広げた。
式典でGA社のリンデン・ブルーCEOは「この日のために2年間準備をしてきた。ガーディアンは200万時間の飛行実績があり、安全性は担保されているが、実証実験には地域のサポートが不可欠で、壱岐市と住民に感謝している。ガーディアンには気象・災害・海洋観測支援、海難・救助支援など10のミッションが課せられている。3週間の実験で得られたデータを日本国政府などに提供し、その能力を証明したい」と話した。
実際にガーディアンから送られてきた映像は、20㌔遠方を航行する船舶の様子も鮮明で、船舶番号や乗組員の動きまで識別することができる。実用化されれば密漁・密入国の取り締まり、水難救助などにも大きな威力を発揮しそうだ。無人機の軍事転用を危惧する記者からの質問に対してブルーCEOは「それはユーザーがどのように使うかによるが、今回の実証実験はあくまでも平和的利用が目的であり、その技術が軍事に使えるものではない」と懸念を払拭した。実証実験飛行場として壱岐空港が候補地に選ばれたのは、定期便が1日2往復しかないこと、民有地のない海上ルートで飛行できることなどの条件による。
同実験を積極的に誘致した白川博一市長は「あくまでも平和的利用であること、軍事的利用の入る余地がないことを筒城地区6公民館に説明し、承諾して頂き、実現することができた。実用化されれば、海上監視は国境離島にとって極めて重要だが、それ以前に、日本初の実証実験を壱岐で行うということに意義がある。世界的な注目を集めることで市のPRになり、知名度が高まる。人口減少対策の一つで、大きなチャンスだと思っている。実証実験のために多くの人が本市を訪れて経済効果がすでに出ている。何よりも壱岐で最先端技術に触れられることは、壱岐の子どもたちの自信、夢、希望につながる」と話し、機体に描かれた壱岐市のロゴマークを嬉しそうに見つめた。
13日の一般公開には市民約300人が来場。悪天候のためフライトは行われなかったが、子どもたちがすぐ近くで無人機、送信された映像データを見学。風舞組ジュニア、風童の和太鼓、郷ノ浦中学校吹奏楽部の演奏、チンドンかわち家ショーなどで、日本初の実証実験を盛り上げた。
◆ガーディアン ▽全長11㍍・翼幅20㍍▽最大離陸重量4763㌔▽離着陸距離610㍍▽最大運用高度1万5240㍍▽最長航続時間30時間以上▽最大運用速度445㌔▽最大飛行距離6千㌔以上