壱岐の島野球教室実行委員会(今田英夫代表)は12日に芦辺ふれあい広場で、島内中学生を対象とした「壱岐の島 野球教室」を開き、中日ドラゴンズ前監督の谷繁元信さん(46)と元選手の和田一浩さん(44)が来島。島内4中学の野球部1~3年生74人に指導を行った。ともに現役時代は通算2000本安打を達成して名球会入り、和田さんは一昨年まで現役選手、谷繁さんは昨年まで監督を務めていただけに、その最先端で実戦に即した的確なコーチングに、球児たちは目の色を変えて練習に取り組んだ。
故障を防ぐ準備体操を
いきなり和田さんがダメ出しをした。練習開始前に全選手が準備体操を始めた時だった。「形だけの準備体操をしても、何も意味がない。足腰、肩、ひじ、手首などしっかりと伸ばして柔らかくし、これからのトレーニングに備えて温めることがストレッチなんだ」と動きの1つ1つを見直させた。
和田さんは大学~社会人からプロ入りし、42歳まで19年間で1968試合に出場。谷繁さんはプロ27年間で歴代1位の3018試合に出場した。ともにデッドボールによる負傷欠場はあったものの、大きな故障をしないで試合に出場し続けたことが、数々の大記録達成につながった。壱岐の球児たちにもできるだけ長く野球を続けて欲しいという思いから、限られた時間の中でも入念なストレッチに時間を割いた。
プロでも基礎が重要
練習でも基礎を叩き込んだ。ベースランニングは塁を駆け抜けた後に球の行方を確認して次の塁を狙う姿勢を見せること、離塁する時の重心のかけ方や帰塁する際の足さばき、キャッチボールの捕球は手を伸ばすのではなく足を動かして正面で受ける、投げる時はボールを軽く握って放す瞬間に力を入れる、近距離のキャッチボールでも大きな動きで投げるなど、ベテランのプロ選手であっても基礎が何よりも重要であることを、手取り足取り教え込んだ。
動きが一変専門的指導
専門的なアドバイスにも球児たちはすぐに反応した。現役時代に捕手だった谷繁さんは、ブルペンで捕手のキャッチングに「ボールを取りに行こうとするから、はじいてしまう」「上体に力を入れないで楽に構える」「捕球時にはひじの位置を動かさない」など的確なアドバイスを送ると、捕手陣はパスボールが急減し、投球を受けるミットの音が見違えるように変わった。
トスバッティングの練習で和田さんは「トスもティーも、ただ球を打つのではなく、実際のゲームと同様に、投手のモーションを想定してテークバックを取り、トップを作ってから打つ。最後までしっかりと振り切ることが肝心」とアドバイス。それまでノーステップで当てに行っていた打者の打球が、ネットに突き刺さるように鋭くなった。
練習の最後は各チームの投手と2人が真剣勝負。慣れない軟球での打撃だったが、フルスイングで応え、和田さんは空振りすると投手に最敬礼し、谷繁さんはヒット性の当たりが出るとバンザイして喜んだ。野球を楽しむことの重要さを、身を持って示す野球教室となった。
離島ハンデなし 素晴らしい環境
キャッチングの指導を受けた郷ノ浦中・村部駿哉キャプテン(2年)は「股関節を柔らかく構えること、ミットの正面を投手に向けたのまま捕球することなど教わった。その点を注意しながら捕球すると、手応えが全然違った」とすぐに技術向上に結びつけた。
投手として2人と対戦した芦辺中・神保亮太投手(2年)は「打席から受けるオーラがすごかった。練習の時に教わった下半身の使い方、重心を貯める方法を試しながら、投げ込むことができた。谷繁さんの投手返しの打球は速かったです」と感激した。
約3時間のコーチングを終えて、谷繁さんは「離島のハンデと言われるが、ぼくも田舎育ち(広島県東城町出身、島根県江の川高校卒業)。素晴らしい自然の中でのびのびと野球をやれることは、むしろ環境に恵まれている。みんな野球を楽しんでいるし、上手くなりたいという意欲に満ち溢れていた。キャッチングの指導は、27年間のプロ経験から多少はアドバイスできたのではないかと思っている」と指導の手応えを語った。
和田さんは「前から教室の話を聞いていて、ぜひ壱岐に来たいと思っていた。1年中、屋外でボールを追えると言うだけでも環境に恵まれている。みんなプロ野球選手を目指して頑張ってもらいたいし、また壱岐に来て、子どもたちと一緒に遊びたい」と再訪の機会を楽しみにしていた。