県は21日、壱岐の島ホール大ホールで「玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)に係る市民への説明会」を開き、市民181人が参加した。玄海原発30㌔圏(UPZ)の4市5会場で3月中旬から順次開催しており、壱岐会場が最後。原子力規制庁、資源エネルギー庁、内閣府、九州電力の職員、役員が玄海原発3・4号機の新規制基準審査結果、我が国のエネルギー政策、原子力防災の取組、玄海原発の安全対策などについて説明した後、参加者からの質問に回答した。会場からは質問が相次ぎ、予定の2時間を大きく上回る4時間に及んだ。
各機関は、新基準の厳しさ、原子力発電の必要性、地域防災・避難計画の整備と国の支援、万全を期した安全対策などについて説明し、玄海原発3・4号機の再稼働に対して理解を求めたが、参加した市民からは再稼働への不安と反対の声が途切れることがなかった。
市民が繰り返し質問したのは「絶対に安全なのか」という点だったが、原子力規制庁の内藤浩行安全管理調査官、九州電力の山元春義取締役らは「可能な限り想定外の事象が起きないように対策をしている」「安全に絶対という言葉はない」「リスクがゼロというわけではない」「新たな知見が出たらさらに対策を高めていく」などと「絶対に安全」とは回答しなかった。
白川博一市長も市民に交じって、挙手をして質問した。「国は30㌔圏外なら安全だと言っているが、福島では40㌔を超えている飯館村も避難対象となった。壱岐だったら40㌔圏なら全島が入る。重大事故の際は島外に逃げたいと思うのが当然の気持ちだが、全島民の島外避難には客船で5日以上もかかる。島外避難に国は責任を持つのか」と問い質した。
内閣府の佐々木雅人参事官は「放射性物質の飛来は距離によってその量が異なるのは確か。コンクリートの建物内なら被ばくは屋外の20分の1になる。20マイクロシーベルトに達したら1週間程度以内に一時移転を実施する。すぐに避難が必要な500マイクロシーベルトは、福島では5㌔圏内の数地点だった。移動手段は民間事業者に加えて、海上保安庁、自衛隊にも協力を要請して、政府が全力を挙げて足を確保する」と説明した。
白川市長は説明会終了後に記者らに対し「国が絶対に安全だと言ってくれなければ、市民の不安を払しょくすることはできない。市民が不安を感じているのなら、首長として反対を続けるのは当然のこと。説明は真しにお聞きしたし、国に責任を持って市民の命を守って欲しいと訴えた。海保も自衛隊も総動員して避難をさせるという答えは精一杯のものだったのではないかとは思うが、再稼働に反対の姿勢は変わらない」と話した。
同様に山本啓介県議も挙手して「答弁が難しい言葉で判りにくく、市民の知りたいことが出てこない。市民が何を求めているのかリサーチをして、答弁を用意してくるべき。この会で説明は済んだと思うのか。市民が安心できたと思うのか。説明が通じていないことを持ち帰って、検討してもらいたい」と苦言を呈した。
資源エネルギー庁の渡邉宏和企画官は「理解を求める活動に終わりはない。引き続き粘り強く説明していく」と答え、県は「県ホームページで4月5日まで質問を受け付けており、丁寧に答えていく」と話した。
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県陸前高田市出身の海女後継者、大川香菜さん(32)は「福島の問題がまだ全く解決していないのに再稼働を進めようとしている。事故が起こった際の屋内退避はどれくらいの時間なのか、その生活はどうするのか、島外に避難したらいつ戻れるのか、ガイドラインは決まっているのか、説明を聞いても安心より不安が募るばかりだ」と切実に訴えた。
◆原発再稼働の地元同意 国は新たな規制基準に基づき原子力規制委員会の審査をクリアした原発の再稼働に関して、平成26年発表のエネルギー計画で「立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む」と記しているが、地元同意に関する法的な規定はない。先行して再稼働を認めた川内、伊方、高浜の地元同意は、立地自治体と県に限られた。