子、孫の代までマグロ漁が続けられるように
産卵期漁獲制限などの資源管理は必須
「壱岐市マグロ資源を考える会」意見広告
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水産庁説明と漁業者
肌感に大きなギャップ
第3回総会
島内のマグロ一本釣漁業者らで作る私たち「壱岐市マグロ資源を考える会」(中村稔会長)は、4月27日、芦辺町クオリティーライフセンターつばさで第3回総会を開いた。
総会には、本会の趣旨や活動に賛同する北海道、千葉県、対馬の漁業関係者が初めて出席した。 中村会長は1年間の活動を振り返り、壱岐のマグロ漁の現状、世界のマグロ資源の現状、資源管理の重要性、産卵期の漁獲制限などを広く訴えた。
「ご理解いただける方も増え、政権与党である自民党の水産部会に呼ばれ、意見聴取されるようになった。私たちの目的は、誰かの獲り分を自分のものにしようとするものではなく、マグロ資源の持続的・継続的な利用のあり方を考えることであり、その上で、マグロ資源を回復させ持続可能な漁業を確立したい」と同会長は強調した。
総会では、水産庁顧問で独立行政法人水産総合研究センターの宮原正典理事長らが、マグロ資源の現状と管理の方向性を説明したが、「親魚資源量と子どもの量(加入量)は無関係である」、「加入量は環境要因に大きく影響される」、「親が減っても、子どもは減らない」などの水産庁の説明と、漁業者の訴えとの間に大きなギャップがあることが浮き彫りとなった。
総会終了後、中村会長は「現在の水産庁の説明では、私たち漁業者は理解できない。漁業者が納得できるだけのデータを公表して欲しい。世界では、産卵期や産卵場に厳しい規制をかけているし、日本海の産卵場では毎年6月から7月にかけて卵を抱えた親魚が大量に漁獲されている現実もある。納得できない説明が続けば、私たちは訴え続けざるを得ない」と複雑な胸の内を明かした。
資源回復めざし苦渋の決断
7月31日まで2か月間禁漁
5月30日、壱岐市マグロ資源を考える会、対馬市曳縄漁業連絡協議会、対馬マグロ船団は、マグロ資源の回復と持続可能な漁業の確立を目指し、産卵親魚に十分な産卵をさせることを目的に、七里ヶ曽根周辺海域における産卵期(6月1日~7月31日)の30㌔以上の産卵親魚に限定した禁漁(3か年)について合意し、6月1日より実施している。
太平洋クロマグロ(以下、マグロ)は減少の一途を辿り、昨年絶滅危惧種に指定。2016年のワシントン条約(CITES)の対象となりかねないほど危機的な状態となっている。
中村会長は「私たちは、かねてよりマグロ資源を回復させるためには、水産庁の進める30㌔未満の未成魚の漁獲制限だけでは不十分であり、未成魚の漁獲制限と並行して30㌔以上の産卵親魚についても十分な産卵をさせることが重要であると考え、自ら行動で示すことで、その気持ちを表したかった」と実施の経緯を説明した。
今回の自主規制には補助金の話は一切なく、あくまでマグロ資源を少しでも回復させたいという壱岐・対馬の漁業者の真剣な決意。全国初の試みとして注目を浴びている。
マグロは高度回遊魚と呼ばれ、広範囲を回遊する。他の地域で漁獲されてしまえば資源回復としての効果が期待できない規制との意見もあるが、それを承知の上で、自ら痛みを受け、壱岐・対馬の漁業者は未来を見据えている。
水産庁の説明は正しいのか
「本当のことが知りたい」
6月5日、水産専門紙のみなと新聞に「太平洋クロマグロ資源回復に向けて」と題する特集記事が掲載された。その内容に、記事を読んだ漁業者から驚きと怒りの声が挙がっている。学習院大学・阪口功教授が語った内容は、これまでの水産庁の説明を根底から覆す内容だったのだ。
阪口教授は、学習院大学法学部の教員として地球環境ガバナンスを専門分野として研究され、マグロ類の国際会議にも研究者の一人として参加されているいわばマグロ類の専門家である。
その専門家である阪口教授が、水産庁の説明の不備を指摘した今回の内容は、早期のマグロ資源の回復を目指す本会にとって援護射撃になるものである。
水産庁は「日本海のまき網によるマグロ漁は、産卵量に及ぼす影響は全体の6%にすぎない」、「30㌔未満の未成魚の漁獲制限だけで資源は回復する」、「ISC(北太平洋マグロ類国際科学委員会)やWCPFC(中西部太平洋マグロ類委員会)の勧告では未成魚のみに言及している」と全国の漁業者に繰り返し説明してきた。
だが坂口教授は水産庁が提示した統計グラフ、その主張について、①近年のデータをもとに算定根拠を出さなければ、日本海の巻網が産卵量に及ぼす影響は乏しいという証明にはならない。非常に不正確な統計だと言わざるを得ない。
②相関関係がないとされる産卵親魚量と加入量の関係を示すグラフは、提示されたグラフでも弱い相関関係があるように見えるし、元のグラフを横に伸ばしてあたかも万遍なくデータがあるように作っている。
③親子関係がないからクロマグロの親魚を乱獲しても加入量は減らないと主張するクロマグロの研究者は存在しない。ISCでもそのような主張は一切見られない。
その他、水産庁が示したデータの不備について、ことごとく指摘している。
本会中村会長は、「私たちは本当のことが知りたい。阪口教授の指摘が正しいならば、これまでの水産庁の説明は何だったのかという話しになる。産卵期(6月~7月)の日本海の産卵場におけるマグロ漁が資源に対して影響が少ない、あるいはそのマグロ漁を続けても資源に対して影響がないことを、“科学的根拠”をもって、広く国際会議の場において議論してほしい。私たちは、昨年WCPFCの北小委員会(国際会議)に日本代表として参加し、その中で世界にはISCと呼ばれる国際研究機関があり、その機関はWCPFCが依頼して初めて調査・研究・分析できると聞いている。今年も9月に開催されるが、是非とも日本としてWCPFCに提案して欲しい」と話している。
また尾形一成幹事長は「この記事を見た漁業者からは、水産庁に直接説明してもらわないと納得ができないとの声が出てきている。収集がつかなくなる前に、水産庁には直接壱岐にきて明確に回答してほしい」と要求した。
今回の指摘は、水産庁のあり方、太平洋クロマグロの管理のあり方に大きな影響を与えかねないものになる。今後の動向に注目していきたい。