郷ノ浦町半城湾のほとりにある陸上いけすの底に、サンゴが生息した痕跡が確認された。所有者の男性が一時的にいけすを使わなくなったことから海水を抜いたところ、後日、底の一部に複数のサンゴが見つかった。すでに死んで白化していたが、これまで壱岐海域でサンゴの産卵が確認されたことはなく、半城湾のサンゴが産卵した可能性が高いことを示す裏付けとなった。
国立環境研究所気候変動適応センター(茨城県つくば市)の山野博哉生物多様性領域長は「産卵しているということは、壱岐のサンゴがいわば自立していて、壱岐の今いるサンゴの保全が、壱岐でのサンゴの今後の生息に直結していることを意味する」と指摘している。
壱岐・対馬海域のサンゴ礁は世界最北限に位置し、壱岐海域には球体状の塊を形成するキクメイシ属を中心に約30種類のサンゴが確認されている。
山野領域長は「温帯域にいるサンゴは、水温が低いなどストレスが大きいので、産卵できているか未解明の部分が大きい。壱岐では産卵しているかどうか全くわからなかった。ひょっとしたら、南から流れてくる卵や幼生のみで維持されている可能性もあった」としている。
壱岐のサンゴは南方に比べ密度が低いのが特徴で、水温が低い中でエネルギーのほとんどを成長に使い「2千年以上ギリギリ生きている状態」(山野領域長)で世界的に珍しいとされている。
見つかったサンゴはキクメイシ科の複数の種類である可能性が高い。1畳ほどの広さのコンクリート製いけす3か所に計55体見つかった。最も大きいもので、直径7㌢、高さ2㌢で、定着してから7年ほど成長したものという。
いけすは、定期的にポンプで海水を入れ替える形式で、同湾のサンゴが産んだ卵をポンプが吸い上げ、壁面のコンクリートが卵が定着しやすい基盤だったことも生息に繋がったと考えられている。
「壱岐のサンゴ礁を護る会」の山川修会長は「産卵していることがまだ学術的に確定したわけではなく、今後も調査を続けていきたい」としている。