原の辻、カラカミに並ぶ壱岐の三大弥生集落遺跡の一つ、車出遺跡群(郷ノ浦町)を発掘調査している市教育委員会は14日、本年度調査している「戸田地区」でクド石が大量に出土したことを明らかにした。同日、原の辻ガイダンスで開かれた原の辻遺跡調査指導委員会(委員長・武末純一福岡大学名誉教授)で市教委社会教育課文化財班の松見裕二課長補佐が委員に説明した。
市教委は令和3年度から同遺跡群を調査している。初年度から天手長男神社がある鉢形山南側の「田ノ上地区」を2年調査した後、昨年度からその西側の戸田地区を調査している。
同遺跡からは、煮炊きする時に用いられたと考えられる石製支脚「クド石」が見つかっている。クド石は壱岐以外では見られない独自の文化とされ、昨年度調査ではクド石を製造、加工するために用いられた可能性が高いたがね状の鉄製品が見つかっている。
本年度は昨年度調査区の東側に調査区(30平方㍍)を設定。その中から落ち込み状の遺構が見つかり、掘り進めた結果、4万点近くの土器などが見つかった。その中にクド石は約150点あり、大きさや把手(とって)の有無や長さ、形の違いなど数種類のクド石が確認された。
また、原石から削り出す加工過程とみられるものもあるほか、たがね状の鉄製品の近くでクド石がまとまって見つかったことからクド石の製作工房があった可能性も高まった。
松見課長補佐は「把手が小さいものは田ノ上地区では出なかった史料で、珍しいものが数多く出てきている。クド石の作り方が見えてきた。今まで最後しか分かっていなかったが、(製作の)流れが見えてきたというのは非常におもしろい成果が得られた」とした。
そのほか出土物には、山形文線刻や四角の記号がある弥生土器(壺)の破片が見つかっている。
市教委は来年度以降、残りの大谷地区、車出地区、鉢形地区を2年ずつ調査する計画。
また、松見課長補佐は原の辻遺跡丘陵部南側に位置する「原の久保A地区」の調査結果も報告。同地区は県が平成23年度に調査し、甕棺墓が見つかっていた。
本年度はその場所の隣接地を発掘し、土坑墓が5基、区画溝が3条、ピット(穴状の遺構)13基を発見。これまでの調査成果と合わせ、この地区では列状に埋蔵する「列埋葬」が南北方向に行われた可能性が高まった。
土坑墓の一つからは、副葬品の大型高坏(直径約40㌢)や鋳造鉄斧が見つかり、松見課長補佐は「列埋葬の流れが見えてきたことと、鋳造鉄斧という重要なものを持つ有力者が埋葬されていることが分かった」と述べた。