WBCでの侍ジャパンの優勝は、日本中を興奮の渦に巻き込んでくれた。普段は野球を観ていない人も、準決勝、決勝の熱闘で改めて野球に興味を、スポーツの素晴らしさに関心を抱いたのではないだろうか。
名シーンは山のようにあったが、記者が最も印象深かったのは、1次ラウンドの日本‐チェコ戦。チェコ選手は他の職業を本業としているアマチュアだったが、1回表にこれまで見たこともない佐々木朗希投手の160㌔超えの剛速球をしっかりと打ち返して先取点奪取。その後も4回途中までに佐々木投手に計66球を投げさせて2安打3四死球を奪った。ゲーム自体は中盤から日本ペースになったものの、序盤は「もしかしたら」の恐怖感を日本に与えていた。
さらに驚かされたのが先発したサトリア投手が大谷選手を2打席凡退に抑え、2打席目には空振り三振を奪ったこと。本業は電気技師で、持ち球は球速120㌔台のストレート110㌔台のチェンジアップだけ。この球速なら日本の中学生でも出せるレベル。もちろんコントロールの良さなど傑出した部分はあったが、「速い球を投げる」という生まれ持った素質が目立っていたわけではない。それでもあの大谷選手から三振を奪えたのだ。全国の野球少年たちに大きな夢を見させてくれた。
これこそがスポーツの楽しさだろう。本市のような離島の中学、高校野球は、人口の面で選手層が薄く、十分な設備がなく、私立のような専門の指導者がいるわけでもない。練習試合の遠征にも費用・時間がかかり本土のように毎週行えるわけでもない。だが努力と工夫により、どんな強豪チームが相手でも1試合だけの勝負なら互角の試合ができ、剛速球投手や強打者が相手でも攻略することが可能であることを、このチェコの選手たちが見せてくれた。
今夏こそ、壱岐高や壱岐商が県大会を勝ち抜き、甲子園大会で大阪桐蔭など強豪校と互角の試合をすることも、決して夢ではないはずだ。