2018年の本市の地方創生を大きく左右する役割を担っているのが、昨年8月にオープンした壱岐しごとサポートセンター「Iki‐Biz」(郷ノ浦町東触、森俊介センター長)と、同4月に発足した「壱岐市ふるさと商社」(市役所観光商工課内、出口威智郎事務局長)だ。Iki‐Bizは本市のあらゆる業種のチャレンジを無料でサポートする役割を担うが、オープン直後から相談予約が満杯に。すでに新提案で成果が出ている事業者も多く、新年を迎えその期待はますます膨らんでいる。
月末時点の事業者からの相談は120事業者から計377件に達した。市が初年度ノルマとして掲げたのは「相談180件」で、年度末まで3か月を残して2倍を超えた。相談者のリピート率は95%を超えている。森センター長は「順調にノルマをクリアできて良かった。オープン前の予約を受けていなかったので、来てくれるか心配な部分もあった。相談数は期待度のバロメーターかもしれないが、それが価値ではない。相談に来てくれた人たちの生活を豊かにすることが目的ですから」と気を引き締めた。
森さんはリクルートでの勤務、カフェ型図書館「森の図書室」や格闘技フィットネスクラブの創業などに関わってきたが、1次産業とは縁がなかった。「判らないことは多いから毎日勉強だが、相談に来る人はその道のプロなのだから、同じ土俵で考えても仕方がない。近すぎないから見えることがあると思っている」と目線を変えたアイデアを提供している。すでにアイデアが形になっているものも多く、相談した120業者の3分の1は早くも何らかの成果が出始めているという。
洋食と珈琲の店「トロル」(郷ノ浦町)は壱岐牛バーガーを猿岩などで移動販売する際に、作りたてを食べてもらうために店を閉めなければならないことに悩んでいた。森さんは「それならば冷えても美味しいものにすればいいのでは。羽田空港の空弁で1番人気は『万世のヒレかつサンド』。壱岐牛を手軽な価格で食べられるなら観光客にも人気が出る」とアドバイスし、壱岐牛バーグサンドを共同開発。食べやすいように一口サイズにカットし、パッケージも見直し、船内での軽食や土産用として郷ノ浦港ターミナルなどでの販売を開始。完売する日が続いている。
シモン芋というビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な原料でドーナツを製造・販売している「壱岐しもん」(芦辺町)は製品「しもんどーなつ」のパッケージの一新を相談に訪れた。森さんは「地元の人に愛されるだけでなく、観光客にも持ち帰ってもらいたい。ミスタードーナツやクリスピーも持ち帰り用の箱がある」と、これまでの6個ビニール袋入りから箱タイプと2個入り紙タイプの2種類を考案。商品名を「しもん・デ・リング」と改め、「壱岐のおばあちゃんの手作り感」を前面に押し出すためにパッケージに「おばあちゃんの健康ドーナッツ」のロゴと、「壱岐産」とハンコを入れ、中にはおばあちゃん手書きの手紙を印刷して同封した。いまでは市内スーパー、土産店での販売も始まり、利益率は2・5倍を記録している。
他にも、高齢者の見守りサービスを加えた牛乳宅配「寄って見(ミ)ルク」、「お酒の30分デリバリー」「靴のお試しテイクアウト」など様々な新サービスの開発、マンホールカードやグランピング施設のストーリー性を持たせた全国PRなどを手掛けている。
目下の悩みは「とにかく時間がないこと」で、9月には月間100件の相談を受けていたが、11月は80件まで絞った。現在は2か月間限定のカメラマンを募集しているが「予算が取れればスタッフを増員し、今後は一業者にとどまらず行政とタッグを組んで、壱岐そのものを大きく変えていくような仕掛けもしていきたい」と今後の目標を語った。