リオデジャネイロ2016パラリンピックのマラソン競技(T12クラス=視覚障がい、日本時間9月18日午後9時スタート)に出場予定の道下美里さん(39=三井住友海上)が6月25~27日に本市で強化合宿を行った。道下さんは2014年の防府読売マラソンで2時間59分21秒の盲人女子マラソン日本記録を樹立。リオパラリンピック同競技の金メダル候補と言われている。普段は福岡市を練習拠点としているが、海沿いで風が強いリオと似た環境の壱岐でリフレッシュを兼ねた3日間の合宿を行い、本番へ向けて練習を積んだ。
本番まで3か月を切り、仕上げの段階に入ってきた道下さんは、初めての壱岐合宿を決めた。「伴走の堀内規生さんが今年の壱岐の島新春マラソンに初出場して、コースも雰囲気もとても良かったと聞いた。リオと同じ海沿いのコースも体験したくて、ぜひ来たかった」と来島理由を話した。
本番でも伴走者を務める堀内規生さん(35)、青山由佳さん(29)ら総勢11人の「チーム道下」は、25日朝に博多からジェットフォイルで到着すると、その足で筒城浜ジョギングコース(1周1㌔)へ向かい、ゴムチップのコースを12周。午後は、本市陸上長距離界トップランナーの川下和明さん(36)らも応援に加わり、原の辻遺跡周辺の1周4・5㌔の周回コースを7周するなど、「絆」と呼ばれる伴走者とつながるロープを片手に、走り込みを行った。
ロードでは身長144㌢と小柄な道下さんを、伴走者や川下さんらが通行する自動車から守るように囲みながら走ったが、自動車の運転手も道下さんのビブスに書かれた「視覚障害OBRC(大濠公園ブラインドランナーズクラブ)」の文字を見て最徐行するなど、道下さんを応援する人の輪が壱岐でも広がった。
道下さんは「ジェットフォイルで到着した時から横断幕の温かい出迎え。地元のランナーにも練習の協力をして頂き、とても感謝している。北海道まで練習に行くこともあるのだから、福岡から壱岐は本当に近い。梅雨の蒸し暑さでバテバテだったので、この涼しい気候と爽やかな風はすごく助かる。この時期に重要な“距離を踏む”練習で足を作りながら、気分もリフレッシュすることができました」と壱岐合宿の成果を強調した。
道下さんは角膜の下にたんぱく質が沈着して視力が低下する病気で、25歳の時に視力が0・01以下となって山口県立盲学校に入学。学校の課外活動で陸上競技を始めるとその素質を開花させ、30歳で中距離の世界選手権に出場。
32歳から長距離に転向し、国内盲人マラソン大会で優勝を重ね、14年IPC(国際パラリンピック委員会)マラソンW杯ロンドン大会で銀メダル、15年IPCマラソン世界選手権ロンドン大会で銅メダルを獲得した。リオ・パラリンピックの陸上代表選手は7月中に決定される予定で、道下さんは日本代表として出場が確実であるばかりか、金メダル獲得の期待がされている。
新春マラソンから輪が広がり、3日間とはいえ壱岐でトレーニングを積んだ選手がリオ・パラリンピックの舞台で躍動することは、市民にとっても大きな誇りとなる。