長崎国際大学人間社会学部の川上直彦准教授とイラク考古・遺産庁の職員が1月30日から2月5日まで、原の辻遺跡で遺跡調査の研修を実施した。
川上准教授はメソポタミア考古学とアッシリア学(楔型文字)が専門。川上准教授は楔形文字史料や3次元地形データなどから分析し、紀元前2300年頃に古代メソポタミアで建設された人類初の統一国家アッカド王朝の首都「アガデ」の所在地を、バグダットの北52㌔にあるテル・シンカーの遺丘と推定。日本学術振興会の科学研究費助成事業の採択を受けて、農地開拓で失われたその遺丘の規模や範囲の特定を目指している。
壱岐での研修は、本調査を前にイラクから研究者を招聘してGPSなどを使った調査機器の使い方を確認した。
イラクではこの機器を活用して、地表面に散在する土器片を採取して地図上にデータベースを構築し、形式学的観点から土器片の年代を調べ、同遺丘がアッカド王朝時代に年代付けできるか検証する。
原の辻遺跡での研修では、地面から露出している土器片を機器で撮影し、50㍍四方に区分した地図上に登録されているかなどを確認した。
川上准教授と県埋蔵文化財センター調査課の片多雅樹係長(元福岡市埋蔵文化財センター職員)が、イラク戦争後の文化遺産復興プロジェクトとして国際協力機構(JICA)がヨルダンで実施した第3国研修(2006年度)に参加した仲だったことから、今回の研修が実現した。
川上准教授は「実際に土器を拾った時にどう管理していくのか想定しているが、これがないとだめだな、というアイデアが出てきた。考古学的な施設を使えるというのは大きかった。テル・シンカーも起伏があり、シミュレーションができた」と話した。
原の辻遺跡からは、平成11年度の調査で遺跡南東部の大川地区の奈良・平安時代の層からイスラム陶器片(約1・5㌢)が一点発見されている。片多係長は「原の辻とイスラム圏とは古くから繋がりがある可能性があり、この地で研修が行われるのは感慨深い。今後も遺跡調査に協力していき、なぜ原の辻遺跡にイスラム陶器が渡ってきたのか、由来など紐解いていきたい」と話した。
研修初日には、イラク考古・遺産庁のアリ・オバイド・シャルガム長官が市役所を表敬。アリ長官は中上良二副市長に「日本とイラクには遺跡という共通の遺産があり、遺跡を守るため両国で協力できることがある」とし、「イラクはテロ組織等によって治安が悪化したが、我々や友人の協力で復興段階に入っている。以前のイラクの姿を取り戻すために努力したいと思うし、皆さんの協力をお願いしたい」などと述べた。