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川内優輝が壱岐で走り初め。歴代最高ハーフ1時間6分35秒。壱岐の島新春マラソン

第31回壱岐の島新春マラソン大会(同実行委員会主催)が8日、芦辺・ふれあい広場を発着とした特設コースで開かれ、6部門33種目に延べ1980人が出場した。出場は昨年の2211人からやや減少したものの、ハーフマラソンには招待選手として、今年8月の世界陸上ロンドン大会マラソン競技に日本代表として出場が確実視されている川内優輝さん(29=埼玉県庁)が初出場。オープン参加のため記録は非公式ながら、大会記録の1時間07分10秒(1990年・村山浩敏=熊本=)を35秒上回る1時間06分35秒をマーク。悪天候の中の大会を大いに盛り上げた。

常に全力で有言実行

日本を代表する現役トップランナーの驚異的な走りに、同走した出場者、沿道の市民、ふれあい広場に集まった観客らは感激、感動した。
前夜から降り続く雨で路面には水たまりができ、ふれあい広場グラウンドはぬかるんでいた上、風速5㍍を超す強風という悪コンディション。川内さんはレース前「降雨はシャワー替わりなのでまったく気にならないが、強い海風はかなりタイムに影響すると思う。タイムを求めることが難しい状況だが、大会記録は更新したい」と27年前に実業団選手が記録した1時間07分10秒の更新を目標にすることを宣言した。
昨年12月の福岡国際マラソンで日本人トップの3位となり、世界選手権の日本代表入りを確実にした。その2週間後の防府読売マラソンでは、福岡前に痛めた足の状態が悪く、失速して3位。世界選手権へ向けて大事な新年の時期に、初コースでコンディションも良くない壱岐で走ることにはリスクが伴う。だがどんな地方の小さな大会でも真剣に走るのが川内さんのモットーで、その走りにはまったく迷いがなかった。
ぬかるんだグラウンドに足をとられ、スタートで転倒しそうになるハプニングがあり観客をヒヤッとさせたが、態勢を立て直すと一気にダッシュして、すぐに先頭に立つ。そこからは1㌔3分ペースの猛スピードで、序盤から後続を大きく引き離す一人旅。そのスピードは最後まで落ちず、一般参加トップの木下和人さん(福岡・まどかRC=1時間15分59秒)に9分以上の大差をつけ、大会記録更新という目標を有言実行した。
ゴール後、倒れ込むことはなかったものの、両ひざに手を当てて約1分間も苦悶の表情で息を整えなければならないほど、すべてを出し切ってのゴールだった。

「奈緒子」の島 テンション上がる

川内さんはレース後「(自己ベストの1時間02分18秒に比べると)タイムとしては満足できるものではないが、想像以上に強い海風の中で心が折れそうになった時に、沿道の歓声に励まされ、漫画のシーンがよみがえって、テンションを高めることができた。一応、合格点を付けられる走りだった」とレースを振り返り、「今後は来週の熊本でハーフ、2月の愛媛でフルを走り、春以降は海外で夏のロンドンへ向けて仕上げていく」と語った。
川内さんが壱岐で走ることを決めたのには3つの理由があった。これまで全国各地のレースに出場してきたが、長崎県と三重県だけはまだ出場したことがなかった。「全都道府県で走りたい」という目標を叶えることが1点目で、残りは三重県だけになった。
2点目は、父親の出身が島根県隠岐の島で「昔から隠岐と壱岐をよく間違えられていた。隠岐と壱岐のそれぞれの良さをもっと知ってもらいたかった」とテレビのインタビューでも壱岐牛の魅力などを全国にアピールした。
3点目はレース後のコメントで語った「漫画のシーン」。壱岐を舞台にした漫画「奈緒子」の存在だ。
「高校生の頃、故障の繰り返しで苦しんでいたが、その時に出会ったのが『奈緒子』。古本屋で全巻を揃えて、主人公の壱岐雄介に勇気をもらった。壱岐で撮影した映画も大学時に封切り直後に見て、いまでも初回限定のタオルを大切に持っている。だからずっと壱岐で走りたいと思っていた。レース中、これが雄介の走った道なのか、この強烈な風が波切島の風なんだ、と思うと、不思議な感覚でテンションが高まった」と壱岐との縁を語った。

小学生4レースでペースメーカー役

“川内劇場”はレースだけでは終わらなかった。ゴール後から1時間も経過しないうちに始まった小学生2㌔の4レース(小学5・6年男女)すべてに川内さんが特別参加。レース間隔は10分しかないのに、そのすべてのレースを1㌔3分30秒のペースでスタートからゴールまで先導し、後ろを振り返りながら終始声を掛け、子どもたちに大会新記録更新を狙わせた。
川内さんの2017年走り初めとなった壱岐の島新春マラソンは、壱岐の子どもたちにとっても、とてつもなく大きなお年玉、初夢となった。

◆川内優輝 1987年東京都生まれ。身長172㌢、体重62㌔。春日部東高校時代から陸上長距離で頭角を現し、学習院大学時代に学連選抜で箱根駅伝に2度出場。大学卒業後は実業団に進まず、陸上部がない埼玉県庁に入庁。県職員として通常勤務をする傍ら、市民ランナーとして全国のレースに出場を続けている。2011、13年世界陸上に出場。14年アジア大会3位。年間10レース近くのフルマラソンに出場し、サブテン(2時間10分以内)は通算10回で日本人最多。
◆「奈緒子」 ビッグコミックスピリッツに1994年から2003年まで連載された漫画。坂田信弘原作、中原裕作画。壱岐島をモデルにした波切島出身の天才ランナー・壱岐雄介が主人公。雄介の通った浦郷小学校は霞翠小学校、波切島高校は壱岐商業高校がモデルになっている。

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