本市観光の拠点施設であり、市民の文化芸術活動の中心にもなっている市立一支国博物館(須藤正人館長)を、平成22年3月14日の開館前から2期10年間にわたって管理運営してきた指定管理者の株式会社乃村工藝社(本社・東京都港区、榎本修次社長)が、第3期指定管理者(31年4月1日~36年3月31日)に応募しなかったことが判った。同社がこのほど明らかにした。新たな指定管理者を決める議案は市議会定例会9月会議に上程されるが、同博物館を知り尽くしている同社の撤退は、今後の博物館運営に大きな影響を与えることになりそうだ。
第3期指定管理者の募集は、5月7~11日に参加表明書の受付、6月25~28日に指定申請書の受付が行われ、7月の選定委員会開催を経て審査・選定、当選者への通知、8月に基本合意書締結が行われたが、そこには参加表明の段階から乃村工藝社の名前はなかった。同社第三事業本部PPP事業部の西村典泰部長は「弊社は開館準備段階の平成21年以降、一支国博物館の指定管理者として事業の運営に取り組んできた。今年度は指定管理協定における契約最終年度にあたり、壱岐市より第3期指定管理者の募集が行われたが、弊社は応募していない。理由については企業としての経営判断に係ることであり、公表を控えさせていただく」と撤退を明言した上で、その理由については一切明らかにしていない。
同社が7月5日に発表した2018年度第1四半期(第82期)決算説明資料によると、売上高は221億2700万円で前年同期比で55億5700万円、20・1%の減少、営業利益は5億4400万円で70・9%の減少など厳しい数字が並んでいるが、同社は「前年同期に大型案件の完工があったこと、前期にグループ会社を株式交換により連結子会社から除外した影響があり減収となった。第1四半期売上高は計画通りに推移している」とし、第2四半期の売り上げは増加に転じるとの予想を示している。市場分野別売上高で「博物館・美術館市場」は前年同期比18・4%減少と、好調な百貨店・量販店市場、余暇施設市場などに比べて低迷しているが、指定管理事業は利潤は少ないものの堅実な事業だと言われており、実際に一支国博物館の指定管理者による利用料金事業・自主事業の収入は、28年度も支出より約188万円上回っている。
一支国博物館入場者数は、第1期は年間10万人の目標をクリアし続け、第2期は目標を11万人に引き上げたことで到達できていないものの、順調と思える推移を続けている。これらの数値からははっきりとした撤退理由が見えてこない。同社は「今後も撤退理由を説明するつもりはない」としているが、須藤館長は常日頃から「一支国博物館は市民の皆様と一緒に作ってきた博物館だ」と語っている。同博物館は「しまごと博物館」「しまごと大学」「しまごと元気館」の3つのコンセプトに基づいて多様な活動を行っているが、ボランティアが展示を案内し、市民が講座の講師を務め、市内の各種団体や個人商店などが連携してワークショップ事業を展開するなど、市民と博物館が一体となって盛り上げてきた。その市民に対して撤退理由を説明しないことは、市民感情を害する心配もある。
今後について同社は「次期指定管理者が正式に決まったら、人事も含め業務の引き継ぎを精一杯行っていく」としているが、須藤館長をはじめアテンダントなど計13人の博物館採用契約職員の去就も正式には決まっていない。平成18年5月の整備・運営事業者選定で管理運営正事業者、展示設計副事業者(正事業者は丹青社)として一支国博物館に10年間以上も係ってきた全国屈指の博物館運営のプロフェッショナルである乃村工藝社のノウハウを、わずか半年間で新指定管理者が継承できるのか、今後の一支国博物館運営の動向が注目される。